【イブラヒムの最期】 オスマン帝国外伝シーズン3 

「イタリア遠征が待ち遠しいです」

と微笑むイブラヒムの言葉をスレイマンは何とも微妙な表情してきいている。

それはそうだ、目の前にいる人物の命をこれから奪おうとしているのに、相手は全くそれにきづいていない。それどころか自分を心から信じている。
そんな時人はどんな顔をするのだろう。
今スレイマンの表情がそれだった。

「ローマに入城するときのことを夢見ているんですよ。まさにマニサで二人で夢見たことを実現させるのです」と笑顔でイブラヒムが言うと、スレイマンも微笑んでうなずく。

こうして二人は昔のことを思い出していた。

地図上のローマに駒をおき、

「ローマ!」と若き日のイブラヒムが夢心地で叫ぶ。

「ローマ!パルガル(イブラヒムのこと)、アレクサンダー大王よりも大きな領土を勝ち得た帝国はこの世に存在しない。

オスマンの土地を彼よりも拡大しないうちは私は死なないぞ。見てみよ。みていろよ。
一緒にこれを実現するのだ!
おまえは私の夢を実現する玉手箱の鍵なのだよ」

と言ってイブラヒムパシャの肩をつかみ、

「私を守るのだ。私もおまえをいつでも守るからな」

と言うと、若きイブラヒムはうなづく。

そして場面は今の二人に戻り、イブラヒムはスレイマンの用意してくれた食事に感謝する。

するとスレイマンも

「どういたしまして(あなたが健全であるように(アーフィイェト オルスン))」

と答える。

それからイブラヒムは

「お許しがあればお暇致します」

と言うと、スレイマンは

うなずく。

イブラヒムはお辞儀をして出ていこうとする。

その時
「ご自分をパシャではなくスルタンとよぶようにと命じたそうです」と言う兵士の声や

「あなたを皇位から降ろすつもりよ」

と言うヒュッレム妃の声がスレイマンの耳に聞こえきた。

さらに 以前スレイマン大帝が偶像の首を切り落としたことを思い出た。

ついには、

イブラヒムが「私がこのオスマン帝国を統治しているのだ」という映像も彼の頭の中を流れた。

それらのことがスレイマンの脳裏に焼き付き、取り除くことができなかった。

スレイマンは迷った挙句ついにイブラヒムと呼び止める。(迷ったと言っても数秒のことだけれど)

イブラヒムはふり向く。

スレイマンは「今晩ここに泊まるがよい、部屋を準備させたよ。」

と言うと嬉しそうにイブラヒムは微笑む。

彼はスレイマンが自分を大切に思ってくれていると勘違いしたのだ。

そして部屋へ歩いて向かう。

「私はイブラヒム。10歳の時にパルガから連れてこられたキリスト教徒から改宗したドンメのイブラヒム。

17歳でスレイマン皇子のもっとも重要な鷹匠(たかじょう)となったイブラヒム

25歳で スレイマン皇帝の小姓頭にそして28歳で大宰相となり、皇帝と力を共にしたイブラヒム。

天国と地獄をいつも自分の中にもち歩き、シェイタンを友にも敵にもしたイブラヒム

門番のカプクルkapıkuluだったイブラヒム。

スレイマン皇帝の家族となったイブラヒム。

皇帝のそばで毎日死と向かい合わせだったイブラヒム。

皇帝の目を見ると進んで死へ立ち向かい、かけ続けたイブラヒム

自分の死の後から自分の葬儀の礼拝するようなイブラヒム」

と言う言葉がイブラヒムの頭をよぎった。

そしてとうとう彼が今晩止まるベッドまで来てしまった。

彼は白い寝巻に心から満足して着替えた。


一方スレイマンもベッドに横たわる。だが彼は寝ようとはしなかった。

夜半ハティジェが電の音で目を覚ます。

「パシャ様は戻ってきていないの」

と付き人にきくと

「まだでございますと」

いう答えが返ってきた。

部屋に戻り心配そうにベッドに座るハティジェ


シーンは変わってイブラヒムは読書をしている。寝る前に読書をする習慣が彼はあるらしい。

今 マキャベリーの「君主論」をよんでいる。

それから彼は本を閉じ眠りにつく。


スレイマンは隣の部屋で眠らないようにと一生懸命だ。朝までないように頑張るが・・・

だが、ついに彼は眠ってしまった。(彼が眠ると処刑が開始するという話だ)(眠らないでよ、スレイマン皇帝、一晩ぐらい徹夜できるでしょう!?)

スレイマンの眠りと同時に、4人の黒づくめの男たちが登場した。

彼らは今イブラヒムの部屋へ向かっている。

そして扉を開けた。

イブラヒムは息ぐるしさで眼が覚めた。

彼はとっさに逃げようとするが、4人が相手では、さすがのイブラヒムもかなわなかった。

一方眠ってしまったスレイマンの部屋のバルコニー側のドアが開く。
その音でスレイマンは目が覚めるそしてイブラヒムと叫んだ。

隣の部屋ではブラヒムが最後を迎えていた。

彼の最期の言葉は Hünkarım(ヒュンキャールム)「私の皇帝様」だった。

彼は床に倒れた。白い寝間着姿で。

目は開いたままだった。

その眼から涙が一滴 こぼれた・・・・

彼の罪は何だったのだろう?



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