『偶然とは何か』 竹内啓著 岩波新書
生きていると偶然の出来事によく出会いますが、あんまりその意味を私は深く考えたことはありませんでした。ところが最近偶然についてよく考えます。偶然の話をしているとある人からこの本『偶然とは何か』を紹介され、手に取ることになりました。
私は今まで偶然と運命(真意)は振る舞いが同じなので、本質的にはこの2つが指し示しているものは同じもので、違いは受け取る側の人のとらえ方の問題だと思っていました。でもこの本ではこの二つをしっかり分けています。
本文引用
「古代の人々は宇宙に秩序が存在することを発見し・・・同時に人間が理解できないことも起きることを認めざるを得なかった。・・・それを何か不可解な必然性の表れとして真意、因縁、運命などと解釈したのであった。それはある意味では偶然を別種の必然とみなすものであり、偶然の存在を否定するものであった。純粋の偶然、つまり何ら理由なくして発生したり怒ったりするものやことの存在を受け入れることは人間にとって難しいのである」
ここでいう純粋の偶然というものに著者は注目しています。
数学的な確率の話も出てきますが、苦手なのさっと読み飛ばしましたが「大数の法則」を押さえておけば、だいじょうぶだと思いました。
著者はあんまり数式の話はせず、現実の中で実際に出会う偶然を、科学や経済、金融、天文、歴史等々いろんな分野から例を挙げて面白く説明し、次に偶然を邪魔者扱いしないで積極的肯定的にとらえることの良さを話していきます。偶然とは世界を作り出す本質的要素というふうに考え、その偶然の意味を積極的に、肯定的に、とらえることで、予測不可能な偶然とうまく付き合える方法を模索します。
ところで、
この間読んだ「まぐれ」「ブラックスワン」の著者タレブさんは限りなく小さなほぼ起こらない確率で起こる出来事は案外人々が感じる以上に高い確率になる場合があるので重要だと繰り返し言っていましたが、この本の著者竹内さんは「確率が0に近いほぼ起こらない出来事は無視しろ」と言っています。それは「杞憂にすぎない」とも・・・
このように、短期間に正反対の意見を目にましたが、どちらもそれなりになるほどと納得させられました。
と同時に、ある主張だけでなくその反対の主張をまたは少し角度の違った主張にも目を向けることが大切だと思いました。物事を多角的にとらえるのにかなり役立つと思いました。
引用
「21世紀は、確実性の追求される時代であるが、しかし偶然はそれで消し去ることができるものではない。
‥‥大数の法則によって飼いならすことが可能な偶然とは違った、別種の偶然が存在し、それが大きな意味を持つ・・・」
「20世紀はいわば偶然の発見ないしは再発見の時代であり、真意や因縁や運命などの別名ではない、偶然そのものの積極的な意味を発見した時代であるといえよう。」
「大は宇宙から、地球上の生物界、そして人間を作る社会の歴史まで、すべてそのようなダイナミックな世界なのである。そうしてその中で、偶然は必然に対する邪魔者扱いではなく、世界を作り出す本質的な要素である。」
目次
偶然と必然
確率の意味
確率を応用する論理
そして偶然の積極的の意味
偶然にどう対処すべきか
歴史の中の偶然性