【トルコ小説】「メヴラーナ」その1 日本人忠俊がトルコへ行く
トルコの作家 メラハット・ウルクメズさんは日本人を主人公とした作品を書いています。
経済大国と自負していたころの日本人のようですね。
あらすじは主人公忠俊がコンヤを訪れそこでメヴラーナについて興味を持ち始め、自分の存在を問い直すという内容です。
こんな感じではじまっています。
東京からコンヤにいたる道1
東京からコンヤにいたる道1
高橋忠俊(たかはしただとし)氏は、世界でも屈指の某電機会社に勤める重役の一人である。彼は支社のチェーン店の連帯を図るため、そしてその輪を広げるためにプロジェクトチームを組み、イスタンブールを訪れた。
どれほど多くの西洋人たちが、日本人独特の和を尊ぶ精神を冷笑し、また日本の会社のために身をささげようとする尊い目的をばかげたことだとみなしたとして
も、はたまた、この高貴な目的を抱く人々を集めるために、綿密に工作し、巧みに操作していると考えようとも、忠俊は、全く別の考えを持っていた。「人間性
と品性が大切である」と彼は考えた。奉仕するという信条は、利益を追求する傍ら献身的に働くことであると捉えていた。また生産性を追及する一方で、ある目
的のために奉仕するという信念を持ち生きる事を、他の人々にも持ってもらいたいと願っていた。もともと彼の気質の中には、人間への愛と人間の価値を最重要
視する傾向が見られた。彼は周囲の人々と共存する中で、包容力のある人間性を育んできた。そして、このような結びつきを失うと、西洋のように重い精神的苦
痛を感じながら生きていくようになることを彼は知っていた。他の日本人と同様に・・・
西洋では教会を中心として、人間の精神的絆を築き、それを独占という形で確立してきた。それとは逆に、日本では各個人が、個々に信条を持つという形があ
り、ひとつを選択しなければならないと言う強制力が働くことはない。人々は無数の宗教を同時に信じている状況がある。たとえば仏教や儒教や神道など、どの 時代でも、それぞれすべてを同時に信仰していた。
忠俊は、日本人らしさを譲歩することなく、西洋の影響力がかなり強い会社についても、「おそらく、西洋の民族主義と東洋の精神主義がバランスよく保たれたので、長期間にわたる成功を会社は手に入れた」と考えていた。
イスタンブールでは会社の連携を図ること、その輪を広めること、製品の宣伝活動等に励んでいた。トルコの取締役達は、忠俊と彼のチームをゲストとして、旅行に招待しようと計画した。日付が聖メヴラーナの追悼祭の12月17日に当たっていたので、場所はコンヤが選ばれた。
長旅の後、コンヤへ到着した。食事を取るのもままならないほど、すぐ休息したいと彼らは願い、ホテルの部屋へそれぞれ入室した。翌日、町の隅から隅までが
歴史的遺産といってもよいコンヤの町を観光し始めた一行は、コンヤが歴史的に大変興味深い場所であり、美しい町であると知った。思い出を残そうと、見たものをいつもカメラやビデオに収めていた。