【トルコ小説】「メヴラーナ」その4 メヴラーナとの初めての出会い

いよいよ主人公日本人の忠俊は聖メヴラーナの博物館に一歩足を踏み入れます。そこは別世界!一見数多くの観光客が訪れる博物館の1つにみえますが、誰もが日常とは違った何かを感じ取ることができる素晴らしい空間です。
その4
 ガイドは旅行中に、聖メヴラーナとコンヤについて予備知識を与えてくれた。この知識の光に導かれ、彼らは、メヴラーナ博物館の外門から中庭へと入っていった。 

秋雨の力強い勢いに逆らい、逃れかすかに生き残ったバラたちは、春も夏も知ることもことなく、花を咲かすこともなく、枯れていった。けれども、季節のいたずら、時に戸惑うバラのつぼみたちは、存在する場所の尊さを知っているかのように、美しく咲き誇っていた。噴水から直接みずたまりに落ちる水のリズミカルな音や美徳を備えた説教壇で語り合いながら飛び回る鳥たちのさえずりも加わり、その中庭は、来世の雰囲気を醸し出していた。庭に開かれた博物館や図書館や修 行者(スーフィー)たちの小房の壁は、何世紀もの間に壊されたにもかかわらず、基本の形はそのまま残されている。しかし、色あせた石は何百年もの間に古び ていった。セルジューク朝の偉大な人物たち、アレムッディーン・カユセル、スルターン・ヴェレド(スルターン・ワラド)、ゲヴヘル・ハートゥンの働きに よって、聖メヴラーナの死後、建造された歴史的な記念碑は、時を越えても頑丈に留まっていた。霊廟の扉は、気高く心を焦がす者達に開かれ、いと高く情熱を 持ち続ける者達を巡りあわせる。その扉は、深い痛みに対する薬ともなる、外界の束縛を取り除く扉、心を携え旅する者達に開かれた扉であった。

  忠俊がメヴラーナ博物館の扉から中へ一歩踏み入れると、神秘的な雰囲気が漂い、その香りが忠俊の顔をやさしく撫ぜ、細やかに彼の魂を包み始めた。彼の心に 安心さと安らかさが生まれるのを、彼は感じた。彼が墓石のほうへ一歩一歩進むごとに、その安らかさは増し、次第に高まっていった。博物館の中に広がる悲哀 のこもった旋律は、日本の音楽とはまったく似ていなかった。今まで聴いたこともない嘆き、悲しみの伴う泣き声にも似た葦笛は、彼の心を震撼させ始めた。傷 心、哀愁そして別れの叫びを奏でているかのような葦笛の音色は、うずきとうめきと共に、弔辞を述べているようであり、物寂しかった。同時に、その想いに燃 え焦がれ、浄化された魂の息吹が、忠俊に伝わってくるようであった。いや彼は確かに魂の息吹を感じた。

 葦笛の奏者の息づかいによって、満たされるその魔法がかった魅惑的な葦笛の翼の羽ばたきに似た音色が、彼の心に届いた。心地よい感覚を味わうたびに、彼は 彼の心の中に何かが燃え上がり、徐々に熱くなっていくのを感じた。悲しげに奏でられる葦笛は、忠俊の耳からはいり、体に染み渡り、心を満たしていった。ま るで強く燃え焦がれることを欲する心に閃光が走り、太陽の燃える炎が心を満たしていくようであった。理性を超えた炎が、彼を取り囲んでいた。
 この炎は、終わりなき永遠への誕生を示し、熱き愛の存在を知らせる炎でもあった。彼の心の中に、ひとしずく、ひとしずく熱き愛が暖かく流れ込んできた。それはまさに春の訪れのようであった。

 コンヤのゼラニウムの香り漂う霊的雰囲気の中で、忠俊は熱き愛の呼び声と変わりゆく高められた心を再び沈ませる旋律、葦笛の悲しげな嘆き声を耳にする時、 「私は音符も、音符に従って楽器を奏でることも知らないのだが、この不思議な音の世界は何なのだろう」とぶやいた。葦笛の吐息は、天の川にまで届く愛、熱き愛の軌道を画いた。彼はその軌道内に入り始めたのである。今まで味わったことのないこの感覚は、説明もできず、理解もできなかった。「もしかしたら、ガイドが旅行中にした解説のためになのだろうか。それで、このような感じを味わっているのだろうか」と言いながらも、一方では彼はまったく違った影響も受けていることを感じていたのだった。まるで、霊廟の壁、天井、扉から、ひしひしと熱き愛が湧き出ているかのようであった。

カタカナ名がたくさん出てきているので用語集を加えました。

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