【トルコ小説】「メヴラーナ」その5 メヴラーナのお墓の前で

小説の主人公日本人の忠俊は聖メヴラーナのお墓を詣でます。その時の忠俊の感覚が妃表現されています。忠俊はそれから博物館内部の展示品を見回りながら、「来たれ来たれ・・・というガイドの言葉を思い浮かべます。

その5
彼は聖メヴラーナの墓石に向かって、深くお辞儀をした。それは、このうえなく敬意のこもった、謙虚な礼であった。日本では、敬意を表し一礼する態度の他に も、丁寧な行動や慣習がある。それは西洋で目と目を合わせながら握手をするのと同じである。人に対し一礼するというのは、「私はあなたを受け入れ、あなた とお近づきになります」と言う意味が込められており、礼を受けたものは、儀礼として、お返しにお辞儀を返す。

 ガイドと一行は、偉大な指導者(ピール)の御前から横側に移動し始めた。忠俊はといえば、そこを離れたくないと感じていた。魔法か何かの力でそこに釘付け にされてしまったかのようであった。手にいれたこの平安な状態を、もっともっと長く味わっていたかった。だが、居心地のよいこの精神的安らぎの場から何と か自分を離させたが、少し憂鬱な気分でグループのほうへ向かった。ガイドが説明する貴重な知識も聴き逃したくはなかったから。

  博物館には、聖メヴラーナと彼が生きた時代についての衣服や品々、手書きの『メスネヴィー』や『聖クルアーン』、葦笛やクドゥム(楽器の一種)や絨毯等々 が置かれていた。それらの前に、いつの時代のものかなどさまざまな知識を伝える説明書きが置かれてあった。ガイドはひとつひとつ丁寧に英語に訳しながら伝 えていた。このような音響効果が見事な環境で、しかも神秘的な空気とうずくような葦笛の音色に包まれた彼の解説は、忠俊の揺れ動き始めた心の琴線に、ひと つひとつ槍のようにささった。心の深くまで刻み込まれ、震えさせた。

おそらく、忠俊は世界中を飛びまわったであろう。しかし、どの国も、そしてどのような場所でも、メヴラーナの御前ほどに感化を受けたことはなく、不思議な異なる感覚で満たされたこともなかった。

ガイドが、旅の間何度か繰り返し暗誦したその有名な呼びかけの言葉が再び耳に響いてきた。

「来れ、来れ、何人であれ、再び来れ、

信仰を持たぬ者であろうと、拝火教徒であろうと、多信仰者であろうと、来れ、

わが学び舎は絶望の場にあらず、

たとえそなたが百度その誓いをやぶろうとも、

来れ、再び来れ」


  忠俊は、聖メヴラーナのこの呼びかけから、人は宗教、言語、人種、民族そして貧富の差による違いはないと考え、愛と寛容さと共に、世界のすべての人々に腕 を広げ、罪びとであろうと、信仰を持たぬ人々であろうと、広い寛大さと慈悲に満ちあふれた愛情深い目で見守っていることを理解した

関連記事
にほんブログ村 テレビブログ 海外ドラマへにほんブログ村 芸能ブログ 海外芸能人・タレントへ

このブログの人気の投稿

オスマン帝国外伝シーズン2最終話あらすじエピソード63 (77話、78話、79話) 

プロフィール

最新記事

もっと見る

プロフィール

プロフィール画像
それはオスマン帝国外伝から始まった
Twitter
YouTube
当ブログにお越し下さりありがとうございます。ドラマのあらすじや登場人物のお話のブログです。どうぞお楽しみくださいませ。 ご連絡はEmailでお願いいたします。 Email