【トルコ小説】「メヴラーナ」その9 メヴラーナを育む若葉の香る土地との別れの挨拶

を心ある者と喩え、「私達の死後、私たちの墓をこの地で探さないでください。私達の墓は、賢きもの達の心の中に存在しますから」とおっしゃった聖メヴラー ナは、彼の心によって全世界の人間を抱き、包み込み、700年間、神への情熱溢れる愛を伝えてきた。神の息吹によって普遍的なメッセージをいまだに与え続 けている。滅びることのない広大な愛が人間の心に芽生えたこの土地から、寛容さが円を描いて回る愛の軸であるメヴラーナの街から、そして、歴史の香りを漂 わせるこの街の息吹から別れ旅立つことは、忠俊にとって大変つらいことであった。

生の中で、今まで一度も味わったことのないすばらしい気持ち、もっとも幸せな瞬間をこの日、一日中感じ続けることができた。初めての親友や恋人に抱く気持 ちに似た愛、その絆が別れの痛みをますます強く感じさせた。まるでコンヤの聖メヴラーナと共に何年間も生活していたかのように、心の一部がこの土地に取り 残された形となった。乞い焦がれる者へ辿り着く道が、遠くに離れていった。観光バスは、12月の寒さの中で夜を分けて、前進していた。忠俊は、いまだに聖 メヴラーナの墓とセマーの儀式の影響下にあった。初めて味わったあの喜びと驚きに満ちたセマーの上演は、彼の目の前から、そして心から離れることはなかっ た。白い衣を着て右に左に、心の周りを旋回しながら、72国の人々を、熱く燃える心によって抱くことを象徴化したセマーゼンたちは、彼の心の中で扇のよう に、情熱溢れる愛によって回り続けた。彼は喜びに満ちて生きた瞬間すべてを思い出そうとしていた。いや、そのことを思わずにはいられなかった。

  彼の人生において、重大な変化のサインが送られ、海の灯台の強い光が自分自身に向けられ、道が示され、そして呼び招かれたことを彼は感じていた。「奇妙な 一日を、私は過ごした。気持ちが混乱してしまった。私の魂は変わってしまった」と思った。あの有名な呼び招きの言葉の意味が、彼の脳を占領してしまったよ うだ。聞いたこと、見たことすべては強い影響力を備えていた。訳などまるで必要とすることもなく、彼の心に、そして魂に呼びかけているようであった。

 ガイドはさらに説明する。

  脱力感が観光バスに乗った人々のほとんどを襲った。一日が終わった。旅の疲れがバスに乗るとドッと出て、彼らは深く眠りに落ちていった。忠俊はといえば、 その日に起こったことを深く考えながら、物思いにふけっていた。とても眠れそうになく、思い起こすことに熱中していた。ガイドが彼のそばに来て隣に座って もいいかどうか尋ねたが、気がつかず、3度目に話しかけた時、やっと彼に気がついたほどだった。窓のそばの肘掛を引き上げ、ガイドに場所を空けた。

ガイドは、

「セマーの儀式はいかがでしたか、忠俊さん」

忠俊は、

「すばらしいの一言に尽きます。思いもかけぬほど、すばらしかったです。深く感銘を受けました。今まで私が人生の中で見たもの、あるいは見ていないものすべて ひっくるめた中で、もっとも美しい儀式でした。感動しました。メヴラーナについてもっと詳しく学びたいです。ぜひ教えてください。おねがいします」といっ た。そして、ガイドの言ったことを記録するために、テープレコーダーを取り出した。何年もかけて行ってきたメヴラーナに関する人生、作品、思想の研究、そ して旅行中にそれらを説明することが、ガイドの主な目的の一つでもあった。ガイドをしたグループの中には、忠俊のように関心を持つ者たちや、それをきっか けにメヴラーナの愛までたどり着く者たちが数多く現れた。このように普遍的愛に到達するためのきっかけになることを、ガイドは心から望み、そのことに大変 喜びも感じていた。

ガイドは時計を見た。忠俊に、彼が望むように、そのすばらしさを伝えるのには十分なほどの時間と場所が彼らにはあった。


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