ヒュッレムの苦しみ、知りながら悪いことをするのは・・・何百倍もつらい。 オスマン帝国外伝シーズン4 56話ハイライト
ヒュッレムはジハンギルの棺を送り出し、今ジハンギルのためにみんなで集まっていた。ハーフザ(暗誦者)がクルアーンのヤースィン章を読誦し、みんなは神妙にそれを聞いていた。ミフリマーフはその間にヒュッレムを慰めようと話しかけるが、実際はこのようなことは起こらない。読誦がなされている間みんなはきいているだけで、話すことは(ほとんど)しない。
その時突然ヒュッレムは立ち上がり席をたった。スンビュルは後を追った。外は雨が降っていた。ヒュッレムは雨の中をさまよいながら、
「自分が罪びとなのだ。ジハンギルは何の罪がないのに、なぜ彼を取り上げたのか」と神にさけび訴えた。
「私をお召しになるべきでした、息子ではなく私を、息子ではなくて・・」とまで叫んだとき、雷が庭のあずまやの手てっぺんにおち、ぴかっと光った。それを見て驚いたヒュッレムは一瞬嘆くことをやめた。
そしてスンビュルが「皇帝妃様」と呼びながらそばにより、たたせようとした。
少しして、宮殿の中にずぶ濡れで入ってきたヒュッレムは、一人でジハンギルの部屋に入りまたなき始めた。
ヒュッレムはジハンギルが使っていた机をいとおしそうになぜた。
そしてジハンギルが書いたアッラーと言う文字を見て、それを胸に抱きあたりを見渡した。
長椅子の上にはジハンギルンのカフタンが置いてあった。それをなぜながらジハンギルのいない悲しみをかみしめた。
☆☆
ヒュッレムの言う通りジハンギルは何も悪いことをしていない。それどころかいつも、公正で誠実だった。だから母ヒュッレムのムスタファ兄に対するやり方に異議を申したて続けてきた。
最後のヒュッレムとの別れのときも、ムスタファのことでヒュッレムと意見が対立し、ヒュッレムの反対を押しきって、ムスタファ兄を助けるために遠征に出かけたのだ。
その遠征先でムスタファ皇子が亡くなり、それからまもなくジハンギルの病気が悪化した。
ジハンギルがイスタンブルに戻った時はもうヒュッレムと話をすることができない状態だった。彼はもうすで亡くなっていたから。だからヒュッレムとジハンギルは喧嘩別れをしたままだった。
もし自分がジハンギルの言うことを聞いてムスタファ兄を追い詰めなかったら、ジハンギルももう少し長生きしたかもしれないと思うと、ヒュッレムはやりきれなかった。自分のせいでジハンギルが亡くなったという自責の念が彼女の胸を押しつぶした。
でもヒュッレムは好きでムスタファをおとしめたわけでない。自分たちが生き残るためには避けては通れないことだったのだ。だからこそヒュッレムはおとしめることが悪いことだとよく知っていた。知りながらこのような暴虐なこと企てた。知りながら悪いことをするのはしらないで悪いことするよりも何百倍もつらい。そのためにヒュッレムは多く苦しんだのだ。
でもヒュッレムが言うように罪びとがそのおかした罪のために死ぬとは限らない。無垢な人が生きるとも限らない。悪いことをしたヒュッレムの命を取り、無垢なジハンギルの命を召さないということはないのだ。すべては神のお望みのままなのだから。なので、ヒュッレムが罪を犯したか否かはジハンギルの命の長さには関係しない。
人はみな定められた日に生まれ、定められた日々を生き、そしてもともと定められた日に死んでいくと当時のオスマン人たちは信じていた。オスマン人たちは運命(天命)を信じていた。
ジハンギルは天命に従って亡くなったのだった。