ヒュッレムの軌跡 7 ハレムを支配するために必要な資質のひとつ

 「あの娘は気が狂ったようでした」

とアレクサンドラがスレイマンの部屋の前まできて中に入れなかった時のことをスンビュルはダイェに話していた。

そこへスンビュルを呼びに来た者がいた。スンビュルはスレイマンに呼ばれた。彼は今回のことをおこられると知って慌てて、もうおしまいだといいながら出ていった。

そこへニギャールがやってきた。ダイェは

「部屋の掃除が終わったか」

と尋ねたが、ニギャールは

「終わるものですか。風が吹けばあちらへ、こちらへとはねは飛び回りますからね」

と答えた。

「罰は終わったのかい?夕ご飯はあたえるのかい?」

とダイェがきくと

「いいえ、おなかをすかせたまま彼女たちはねるわ」とニギャールはにやっとした。罰はそのまま続くようだ。

ところが

そこへまたスンビュルが来て

「アレクサンドラを皇帝がまた御所望だ」

といって手に頬をあてた。どうやら怒られなかった様子だ。

わあこれはえらいことになった。急がねば!

ということで

準備の仕事はニギャールに任された。

アレクサンドラは

「あの女性は意図的にやってきたのがわかるわ」

とマヒデブランのことをせめた。そして

「私に見せるために部屋までよんだのよ。私を見たわ。彼女は怖がっていたわ。夫を私に奪われないかとね」と言ってから少し考えて、

「ええ、手に入れるわ」と自分に言い聞かせているようにつぶやいた。

「あなたはどうかしてるわ。アレックス。彼女は皇帝の妻よ。彼女は女王なのよ。その上彼女には息子までいるのよ」

といったが彼女は

「私もそうするわ。皇子を産んで見せるわ」といいきった。

そこへニギャールがやってきて「立ちなさい」と命じた。

すかさずアレクサンドラは

「きれいになったでしょ。そうでしょう」といった。このころから意見をズバッと述べていたようだ。彼女はこんなふうに最初から最後まで強気な女性だった。

ニギャールが今晩皇帝の元へいくのよと朗報を伝えると、微笑んだ。

スレイマンはバルコニーでアレクサンドラのことを思い出していた。

今日のドレスは赤が基調だった。

「今日こそはつつましやかにね。皇帝を楽しませなさい。あなたの代わりになりたい娘はたくさんいるんだから。今宵限りと思うのよ。

夢を抱かないで。もし皇帝が喜んだらあなたに贈り物が届くからね。

マヒデブランは彼にとっては唯一の女性なのよ。毎週木曜日には一緒に過ごされるわ」とニギャールがアレクサンドラの準備をしながら話しかけた。

「何故木曜日なの?」

「習慣よ。木曜日から金曜日にかけては神聖な時なの。もしその時に妊娠すれば祝福された子が生まれるからよ」

(これはおかしい気がする。敬虔な方々はこの神聖な時を指数は言行為をして過ごすことが多い。お祈りや想念(ズィクル)等で過ごすのだ。一応オスマン帝国の皇帝他紙は敬虔なことになっているのだから、ほんとにこの習慣があったのなら、彼らはその時期に崇拝行為はしなかったのだろうか?)

 「今日は何曜日なの?」

と聞くと

「水曜日よ」

と答えた。

するとアレクサンドラは考え始めた。

何を考えているのだろうか?

もしかしたら木曜日を乗っ取るつもりなのだろうか?

 

そしていよいよ部屋に向かった。

スンビュルどういう作法かを与えた。

「まずは服の裾に口づけの挨拶をなさい。

眼をみてはいけない、

大声で話しても笑ってもいけない」

中に入ると、アレクサンドラはいわれた通りに裾に口づけをした。だがほかのことは聞かなかった。

なんとその後気絶する真似をしたのだった。

そして

眼を見ることも、大声で笑うことも、大声で話すことも、大いにやってのけたのだった。

大胆というか、従順ではないというか、決まりを守らないというか

ともかく自分の自由に行動した

でも実はこのスンビュルの言う通りにしないことこそが彼女が彼女である所以なのだ。

これは後にハレムを支配するまでに至るための重要な彼女の資質の一つだったのかもしれない。

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