トルコでなぜ精神科医の書いた本を原作としたドラマが大ヒットするのか?

Masumlar Apartmanı(マスムラル アパルトマン) というドラマがトルコで大ヒット中です。マスムには「きれいな、無垢な」という意味があります。題名は「きれい好きな人たちすむアパート」みたいな意味になるんですが、

このドラマはドクター ギュルセレン ブーダイジュオール精神科医が実話をもとにして書いた小説が原作です。2020年には彼女の作品からもう一つのドラマが作られました。今まで紹介してきた「赤い部屋」です。

ドクターギュルセレンが本を書いた目的は、トラウマによる障害、そしてその障害からどのように立ち直るかというテーマを心理学者たちの手にのみおさめるのではなくて、私たちみんなにも身近にわかりやすく感じてもらいたいということでした。

この本の物語の中に出てくる登場人物たちは、本当に考えも及ばない出来事を経験してきた方たちばかりで、「本当なの?そんなことないでしょ?」と思いながらも、吸い込まれていくように読んでしまうといった感じの本です。

ドラマの題名「Masumlar Apartmanı(きれい好きな人たちすむアパート)」とは反対に本では「Çöp EV Hikayesi」(ごみ屋敷物語」)となっています。

2020年に最も注意ひいた人物は、このドラマの登場人物サフィイェでした。サフィイェは3人の姉妹と叔母と父と持ち家のアパートに住んでいます。サフィエと妹のギュルセムは潔癖症で、必要以上に清潔です

末っ子のネリマンだけがほぼ正常で、彼女が姉たちをメンタルクリニックに連れていき、彼女たちのトラウマを取り除くことに成功します。トラウマの原因は母親でした。母は男の子以外は子供ではないと考えていたようで、娘たちを冷淡に扱います。

その結果必要以上に清潔好きで、汚くなった思った物はすぐにゴミ袋に入れ、アパートの人が住んでいない部屋にどんどん詰め込んでいきます。そのため家は異様なにおいが立ち込めています。こうしてごみがいっぱいの屋敷に住んでいました。

そんな中ネリマンと結婚したい男性が現れ、家にやってくるのですが、アパートのごみと姉たちの異様なまでの潔癖症によって結婚は破談になります。

それでネリマンは 姉たちをクリニックへ連れて行こうと決心したわけです。

 トラウマは解消し、サフィイェたちはアパート建物全体の中にあるゴミ袋というゴミ袋を全部トラックに乗せて、もっていかせます。汚いにおいにおさらばし、異様なきれい好きもおさまりますネリマンは無事結婚できることができ、3人ともそれなりに幸せになりました。

赤い部屋も同じような子供時代のトラウマによって現在を不幸に生きている人々の物語を扱っています。

 彼女の作品が原作の大ヒットしたドラマは他にもあります。2017年には「イスタンブールの花嫁」HAYATA DÖN(生き返れ)という作品からですし、2019年に放送されたDoğduğun Ev Kaderindirü「生まれた家があなたの運命」はCamdaki Kız「ガラスの少女娘」が原作となっています。

Madalyonun İçi(コインの中)という作品が原作のドラマは「きれい好きな人たちの住むアパート」と「赤い部屋」です。去年から現在まで大ヒットしているわけですが、

☆それでは何故こんなにもドクター・ギュルセレン原作のドラマが、恋愛ドラマは愛憎復讐劇ドラマ、時代劇ドラマを抜いて、人気の上位を2作品が占めているのでしょうか?

今までにも本の物語に出てくるような人生を送っていた人がたくさんいたはずですが、それが表ざたにならなず、公的にはあまり知られていなかったように思います。都市ではトラウマを解決しようとメンタルクリニックを訪れる方が増えてきたため、以前よりも多くのケースが知られるようになりました。

ですが、クリニックに来られる方たちはまだ恵まれた方たちで、現実には相談に来る費用も出せない人もいますし、周りの人が症状に気づいても放置される割合が多いのではないかと思います。

女性や子供たちを暴力によって従わせるという慣習も一部の地域には残っていますし、そのような地域ではクリニックもありませんし、もしあったとしても異変をきたした人々をクリニックや病院へ連れて行こうとしません。慣習が障壁になっているのです。たとえばドラマ「エートス」では、病院に行くためにホジャの許可を得なければならないというような状態でした。

かなり以前のことになりますが、私がいくつか訪ねた家のゲリン(お嫁さん)たちに異変が起きていることをまのあたりにしました。

彼女たちは私たち客がいるときも、布を手にもっていて、いつもどこかを拭いて掃除していました。どうしたのかと尋ねると答えることもままならず、ただひたすら床や廊下を拭いていました。

嫁いだ先の環境が彼女たちを病的な症状が出るまで追い込んでいたのです。でもそのまま放置されていました。病んだ状態で嫁としての仕事をこなしながら日々を送っていました。

もし彼女たちが今テレビでドクターギュルセレンさん原作のドラマを観たら、自分の異変に気が付くことができるかもしれませんし、周りの人ももしかしたら「彼女は具合が悪い」とわかるきっかけになるかもしれません。

さらにドクターギュルセレンさんの本を読むチャンスがない人もトラウマ解消の心理学的アプローチをドラマを通して知ることができます。

トラウマに対するトルコの人々の心理学的アプローチへの関心がドラマを通して高まり、また心理学への関心が高まるにつれて、ドラマへの関心も高まるからもっと見るという相乗効果に大ヒットの原因があるのではないでしょうか

ということでこれからもこのようなドラマがますます増えていくことでしょう。それらのドラマを観ることで、トラウマは解決できなかったとしても、自分の心の状態を知ろうとするきっかけになるといいなあと思います。では良い眠りを

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